CHINTAIスキークラブ「ジャンプ通信」
スキージャーナリスト・岩瀬孝文氏によるスペシャルレポートをお届けいたします!
是非ご覧ください。
蔵王の風事情
晴天、抜けるまでのクリアな空が、蔵王温泉スキー場を青く染めていた。
公式練習中は程よい順風で、選手たちは思い思いに飛距離を伸ばしていく。
それが1本目になると、なぎの風となり、終いには追い風にも見舞われる始末で、苦心しながらのジャンプになった。
よく言われる面(つら)の長い山形蔵王シャンツェは、なだらかなサッツの形状を有し、それは欧州でW杯を開催する台によく似ていた。
ヒルサイズは102mと長めに設けられ、正面からの風に乗ると長距離飛躍が期待されていた。

この1本目、完全な無風となり、低空飛行で72mに終わっていた小林諭果(CHINTAI)が試合後に冷静に分析してくれた。
「いまは空中姿勢よりも、アプローチ(助走路)の姿勢を固めている状況です。まだ身体の前後へのブレがみられたり、そのあたりを安定させなければなりません」
助走路でスキーにウエイトをかけて、スピードに乗り、的確で良いタイミングのサッツ(踏み切り)で空中に飛び出す。
その一連の基本動作を丹念に繰り返し練習して、それを固めると表現していた。 すべての流れが好転すると、前方からの風を受けて、正直なまでに飛距離を伸ばしていくイメージにある。
サマーとウィンター
現在はサマージャンプの時期、勝負は冬12月に開幕する雪上のアプローチを自然に滑ることに尽きる。
仮に、夏場のセラミック助走路に慣れ過ぎてしまうと、それは自然の天然雪を滑っていくアプローチとは、まったくと言っていいほどに感覚が違ってくる。
そこに夏と冬の落とし穴があるのだ。
ゆえにサマー期に絶好調でも、一転、冬の立ち上がりには調子を崩してしまう選手が出てくる。
コーチであるヤンネ・バータイネンはときに分かりやすく説明するが『アプローチにしっかりと乗り、サッツまでスピードを推進させながら滑ること』をテーマに与えている。
「フィンランドにある昔からのジャンプ基礎技術を学ぶというよりは、ユカさんが長年、培ってきたテクニックに上手にアレンジを加えていく流れにある」
要するに、夏はベースを固めていき冬の雪上へ確実に合わせていく、そのプロセスを大切にしているバータイネンコーチ。
いわゆる、いま闊達な飛距離をめざすよりも、12月以降に雪を掴んでいく時にこそ本領を発揮する。
これが理想である。
ひとえに飛距離の数字で元気がなくなりそうになるが、いまはひた向きに課題に取り組んでいこうと気を入れるユカ選手であった。
アプローチを固めて、冬の雪上へと段階を突き進む。ただ、それだけだ。

炎天下、サポートに徹するCHINTAIスキークラブ プリンシパル茂野美咲
蔵王大会後には、ここで数日間の居残り練習を行ない、充分に集中したジャンプで感覚を磨いた。
そして最後にジャンプ台に向かって一礼をして、静かに去った。
さあ、次のゲームは国体シャンツェで開催される塩沢石打『エイブルCHINTAI杯』だ。

文・写真/岩瀬孝文
大会結果
■サマースキージャンプ2025山形蔵王大会 72m 72m 119.1ポイント 22位




