CHINTAIスキークラブ「ジャンプ通信」
スキージャーナリスト・岩瀬孝文氏によるスペシャルレポートをお届けいたします!
是非ご覧ください。
勢いの波
勢いの波というものは本当にあった。
「イメージしているジャンプが、やっとできるようになりました」
試合後に観客エリアでポストカードを配り始める前に、とみに快活な笑顔を見せてくれた一戸くる実(CHINTAI)だった。
「注意をしていた手のばらつきや空中での我慢です、それらがちょっとずつでも改善できるようになってきました。そこに気持ち的な余裕ができたように思います。あの海外遠征でのサマーグランプリ最終戦で1本目9位に入ったことが大きな自信になっています」
と、かみしめたように言う。
では、あえて海外でのライバルは?と問うてみた。
「まだ誰に負けたくないとかはなくて、そうすると自分にプレッシャーをかけすぎるので、考えないようにしています(笑)。いまは髙梨さんや伊藤さんとW杯遠征メンバーの皆さんと競い合うことができて、その上で表彰台を目指すことが大切だと思います」
いたって謙虚なままだった。
「今日の1本目は横風によってバランスを崩しましたが、いえ、それよりもその風に上手に乗っていけばいいだけなので」
そして希望に燃えたものすごくポジティブな一戸選手がそこにいたのである。
少しばかり緊張があり、試合会場では高揚感に包まれていたが、これまでのようにガチガチにはならず、じつに思いのまま自然体で飛んでいた。
晴れて日本代表入り
サマージャンプの国内最終シリーズ3連戦。
全日本選手権ノーマルヒル宮の森で3位表彰台に入り、そしてUHB杯ラージヒルでも同様に3位。代表入りに王手をかけたNHK杯兼全日本選手権ラージヒルでは1本目の飛び出し直後に横風の影響があり、飛距離が伸ばせず5位入賞となった。
そして、総合力と期待が込められ日本代表の6番手に滑り込んだ一戸選手。
「選ばれたので嬉しいです。それは、もうとことん頑張ります。もちろん国内大会では優勝することが目標でした、それは今後の反省点として残しておきます。また、この先のW杯ではしっかりとポイントを取ってレベルアップを果たしていきたく思います。そのためにもさらにトレーニングを積んで、その精度を上げて冬へと向かっていきます」
落ち着いた表情で、うれしさを充分に噛み締めながら応えた。
一戸剛コーチは好ましい評価を口にした。
「ここまで良い感じにありラージヒルでも伸びていく空中感覚が見え、踏み切り(カンテ)の強さが空中へ伝えられています。それと空中で上半身の力を抜くことを会得していました。そういう空中感覚の良さができてきました。またサマーグランプリ最終戦の1本目9位の経験でメンタル的にもいい印象にあります」
冬場の事前合宿はフィンランドのロバニエミで主に天然雪を乗りこなし、冬の感覚を取り戻してからリレハンメル入りする予定にある。
「雪上トレーニングは慣れ親しんだロバニエミでの合宿を経て12月初めあたりにW杯の会場へと移動です。早めにアイストラックのアプローチを滑り、その良い流れと感覚のまま、冬シーズンへと突入していきます」
さあ、頑張っていこうチームCHINTAI !!
捲土重来ここにあり
もとからロングジャンプが魅力の小林諭果(CHINTAI)は、風を上手くつかみ、宮の森ではジャンプ後半に、じっくりと飛距離を伸ばしてていねいに着地を決めていた。
「優勝だけが海外遠征の選考基準だったので、そこをめざしていました。でも、思うような結果が得られず悔しい大会になりました。ここからまた冬に向けて、気持ちを切り替えて、進みたいと思います」
練習ではよくなっていた踏み切りのタイミングが遅れてしまったことを顧みて、アプローチの滑りから適切なスピードを出し続けることが大事であるとの認識を深めた。
大会後には、サイン入りのポストカード配り、それを嬉しそうに受け取る観客の皆さんは、もちろん小林選手のファンになってしまう。
「小林選手は力みがありました。飛び出してスキーが下がったのです。ただ、ここにきて踏み切りのタイミングはよくなってきています。あとは雪上でのトレーニングで、より良いものが得られることでしょう」
選手ふたりに、つきっきりで指導していた一戸剛コーチは札幌大倉山において先を見据え、実直に応えてくれた。
地元日本の希望の風
W杯開幕の日本代表は6人枠の遠征メンバーになる。
日本トップ選手の髙梨沙羅選手と伊藤有希選手に膝のケガから復帰した丸山希選手、W杯経験が豊富な勢藤優花選手と宮嶋林湖選手、そこに若手新鋭の一戸くる実選手がチーム入りしてきた。
今後は、保持するポイントとW杯の成績に応じて国内選手との入れ替えが施されてくる。
開幕は12月2日にノルウェーのリレハンメル五輪シャンツェ。
明年1月に控える札幌W杯と蔵王W杯の両大会では、10位以内をめざしたい一戸選手だ。
しかも、地元日本の良風に乗っての表彰台これは望み過ぎではなく実現が可能である。
概して強豪選手は、開幕のスタートから一気に上昇気運を身にまとい突き進むものであるから、それが楽しみでならない。
それゆえに、ぜひとも現地で日本選手に大きな声援という、気迫と渾身の向かい風をおくりたい。
文・写真/岩瀬孝文
大会結果
2023年10月26日(木) 第102回全日本スキー選手権大会ノーマルヒル競技
2023年10月28日(土) 第36回UHB杯ジャンプ大会