2018年3月11日(日) 宮様大会ラージヒル
『茂野と小林で1-2フィニッシュ!』

 

 

この日最長不倒を決めた茂野のジャンプ

 

宮の森で行なわれた宮様大会ノーマルヒルから、なか一日おいて
大倉山で開催された宮様大会ラージヒルは、晴天で良い向かい風の好条件だった。

 

ここで茂野美咲(CHINTAI)は1本目に113.5mを飛んで首位で折り返した。
続く2本目では順風に乗り、最長不倒となる125.5mを記録して圧勝を遂げた。

 

「ノールヒルでは悔しい2位だったので、
 今日のラージヒルではどうしても勝ちたかったんです」(茂野)

と、にこやかな笑みをみせた。

 

 

日本代表メンバーの5人はこの時期、
欧州で開催されているW杯の終盤戦に出場していた。

 

国内に残留している選手の中ではトップクラスの実力を持つ
茂野と小林諭果(CHINTAI)だった。

ふたりとも『3月の国内試合は全勝します!』と宣言していた。

それがノーマルヒルでは茂野が2位、小林は5位に沈んだ。

ならば宮様大会ラージヒルではなんとしても優勝をと、集中してジャンプしていった。

 

とことん頑張りたいというポジティブなジャンプで茂野が勝利をあげ、
さらには宮様大会ノーマルヒル5位のうっぷんを晴らすべく、
105mに108mと2本揃えた小林が2位に入ってきた。

 

「これまではサッツ(踏み切り)のタイミングが合わないことがたびたびあって、
 その修正に苦心していました。ですからもっと練習を積んでいかなければなりません。
 いま身体には、シーズンの疲れがたまってきていますが、
 24日の最終戦になる伊藤杯ファイナルでは思い切りジャンプします」(小林)

長身選手で海外勢にひけを取らないダイナミックな飛びが魅力の小林だった。

 

この日2位となりCHINTAI1-2を決めた小林の飛躍

 

 

フィニッシュゾーンのプレスエリアで宮様大会ラージヒル優勝の取材を受けながら、
しばらくして茂野がこう切り出した。

 

「皆さんに、発表があります。ひと月前に結婚しました」

 

新聞記者たちは、えっと驚いた。

 

ちょうど、そこに五輪金メダリストの船木和喜選手(FITスキー)が通りかかり

『皆さんにお知らせがあります。わたしはこれで現役を引退したいと思います。
長年ありがとうございました』と一礼をしたものだから、記者たちに一気に動揺が走った。

 

いや、これはユーモアにあふれ、場の空気をつかんだ船木さん一流のジョークであった。
その後、すぐさま『優勝おめでとう、結婚おめでとう』と茂野と握手を交わし、さっそうと引き上げていった。
それは心憎いばかりの演出だった。

 

「優勝したら、結婚のことを言ってしまおうと考えていて。
  いまがその時なんですね」(茂野)

と、しみじみと。

 

「それで、現役を続行します」

 

声高らかに選手続行宣言。

 

「今季、後輩たちが何人も引退します。
  正直、心が揺れましたけど、私自身じっくりと考えてみたら、
 まだ、やるべきことがあると。
 それは平昌に応援に行かせてもらってよく分かったのです。
 なんで、この輝かしい試合の場にいないんだと悔しくてたまらなくて。
 私がいるのは応援席ではないだろうって」(茂野)

 

ともに切磋琢磨してきた竹田歩佳、澤谷夏花、笛木美沙などの
同僚たちが、今シーズン限りで引退を決めてしまった。

 

そんな寂しさが心をよぎる。

 

「体力面での衰えとか、年齢など考えることがたくさんありました。
 でもうまくジャンプが飛べたときには、ほんとうにうれしくて。
 それなんですね原点は、ようやく気がつきました。
 これからは1年1年を大切に、北京オリンピックをめざします。
 その前に来年の世界選手権に出場します」(茂野)

 

2011オスロ・ホルメンコーレン大会以来となる
2019ジーフェルド世界選手権(オーストリア)出場に思いを馳せた。

 

年明けからの茂野の頑張りと、空中を飛び抜ける技術の向上は目を見張るものがった。
これには旦那さんの応援とこころの安らぎがあったからこそ。

 

日本の女子ベテラン強豪選手ここにあり。

 

報道陣ににこやかに結婚報告をする茂野

 

今後、日本チームは若手選手だけのメンバー構成で良いのだろうか。

勝負の駆け引きに長け、試合の酸いも甘いも知り人望あるベテランと中堅の存在は大きい。

日本のW杯出場はいまの4枠から5枠へと移り、
実質6枠という欧州強豪チーム並みのパワーを有するのが現状である。
この先、必ず国内トップグループに位置する茂野と小林に
大きなチャンスがやってくるのは明らかだ。

(文・写真 岩瀬孝文)